水の学習室〜世界の水危機〜
水の危機は、世界規模で見た水資源の状況を表す言葉として、国連などの国際機関が提唱しており、
特に、水不足と水質汚染が主要な問題とされています。
国連推計などによると、世界の人口の5分の1にあたる12億人が適切な飲用水を確保できて
いないとされ、さらには26億人が環境衛生(排水処理など)用水を適切に確保できていないとい
われています。この問題は悪循環を引き起こし、下水処理施設がないために飲用水が未処理の
水に汚染され、結果として適切な飲用水の供給を阻害しています。そして、汚染された水源を使用
する人々の間に病気や死をもたらし、毎年300万〜400万人が下痢、コレラなどの水に由来する
病気で死亡しています。
この水質汚染に起因する死亡は、水質改善すれば防止できるという考えがありますが、安全な水
の利用可能量についての地球の許容能力には限界があり、実情ははるかに複雑となっています。
排水処理プラントなどによる水処理技術により解決できる場合もありますが、それに要する費用は
莫大であり、発展途上国の多くにとっては負担できないのが現状です。発展途上の諸国が経済的に
豊かになるにつれて事態は部分的には緩和されるでしょうが、安定して解決するためには、各地域に
おける水資源と人口の調整や、水資源をもっと適切に管理する体制を確立する必要があります。水
資源が限りあるものだという認識が広まらなければ、世界的なバランスの改善は達成できません。
世界各地の水資源は、地理的にあるいは、時間・季節により偏在して存在します。雨は、大気の
流れにより地域差があり、砂漠で雨が少ないのは気圧の関係で水蒸気を含む空気が下降し、雲が
発生しずらいことによります。
国連食料農業機関(FAO)によると、河川や湖沼から利用可能な水量の90%以上が、使われて
いない現状にあり、その原因は、水資源が世界に均等に分布していないからです。降水量の少ない
中東や北アフリカでは、年間一人あたりが使える水の量が 1000m3に満たないですが、アジア
モンスーン気候で多雨の東南アジア地域や熱帯雨林気候の南米では、1万m3を超える国が多く
存在します。
しかし、実際に生活で使っている水の量は事情が異なり、本来は、地域の自然条件による水資源量
によりますが、水が豊かな東南アジア地域などでも、ダムや貯水池をはじめ取水配水設備が未整備
で、生活用水が不足している途上国が多く存在します。逆に、中東の産油国では、豊かな資金により
仮想水の輸入や、海水淡水化設備により生活用水を確保しています。一般的に日本、米国など先進
国は水を多く使い、貧しい国は水不足という構図となっています。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、21世紀の半ばには、アフリカ南部などでは利用可能な
水量が10〜30%減少し、アジアや南米の多雨地域では10〜40%増加すると予想しています。
IPCCは、地球温暖化による気温上昇が進むと集中豪雨の頻発と、干ばつ地域の増加も指摘しています。
農業用水は水の需要の最も大きな部分を占めます。天候の影響を最小限に抑え、安定した用水
を得る農法として行われているかんがい農業は、安定した水の供給なしでは成り立ちません。その
ため、河川や湖沼、地下水などを水資源として開発することが進められてきました。しかし、これら
の水源からの限度を超えた取水により、世界各地で農業用水が不足しはじめています。
かんがい農業は、その水源を河川に求めていたため、河川は農業用水の安定した供給源でした
が、大規模な開発によりダムの建設がなされ、一時的な貯水量が確保されると、持続的に供給でき
る水量を超えた取水が行われるようになりました。
中国の黄河では、近年、毎年のように下流で一時的に干上り、1997年には河口から600kmに
及び水流が途絶えた日が260日を超えました。上流から中流での、河川の水量の90%という過剰
取水が原因と考えられています。
20世紀以降、地下水利用の機械化が進み、大量の地下水が農業用水に転用されるようになり、
結果、先進諸国では持続可能な量を超えた地下水の汲み上げが行われ、農業を危機に陥れてい
ます。近代農業における生産性向上は、農業用水が無限であることを前提にしており、そのため多く
の地域は、短期間の収穫のみを期待して大量の水を汲み上げるか、あるいは長期的な生産量安定
を図るために計画的に取水量制限を行うかの選択に迫られています。
また開発途上国では、全般的に地下水を過剰に汲み上げていて、インドや中国では、地下水の
過剰なくみ上げにより地下水位の大幅な低下が生じています。
先進国のひとつで農業大国である米国においても、地下水の過剰な汲み上げにより、農業に悪影
響が生じている地域が多数あり、水質の維持と農業の長期的継続が危ぶまれだしています。米国最
大級の地下水源である中西部・南西部8州におよんで広がっているオガララ帯水層では、気象条件や
地層の構造により地下水の涵養量が少ないこと、その一方で大規模な灌漑によって帯水層からの揚
水量が増加したことによって、オガララ帯水層の各所で地下水位の低下が見られるようになっています。
通常、野生の動植物は、十分な水とともに生活しています。元来、地球上の生態系・生物群系
には、その十分な水の恩恵により、多様な生物が存在していました。その豊かな生物多様性が、
近年の人類の豊かな生活の代償として脅威にさらされています。その原因として、人の移動や運搬
などによる外来種の導入などもあげられていますが、その多くは生息域の破壊によるものです。
沼地や湿地、河岸地帯が、適切な水の供給なしで成り立たないのは明らかですが、森林などの陸上
の生態系も利用できる水が減少するにつれ、その生活に著しい被害を受けます。湿原の場合には、
人口の増加を支える食料と住居の供給、工業の発展のために、かなりの広範囲にわたって開発され、
自然が失われてしまいました。その他の地域でも、ダムなどの建設により上流で水が堰き止められたりすると、水の流入が減少し土地がやせてしまいます。
地球上の生物多様性は均等ではなく、雨量の多い熱帯では多様性が豊かであり、少雨で高度、
高緯度ほど種の数は減少します。生物多様性は、気候、標高、土壌、および同時に存在する生物に
影響を受けますが、水はその中で最も重要な要素といわれます。
水の豊かなブラジルのアマゾン川流域の森林には約2万種の植物や何百万種の昆虫類がいて、
その多くが固有種であり、アフリカ大陸から分離したマダガスカル島では、乾いた落葉樹林と低地熱
帯雨林において、固有種の比率と生物多様性が非常に高く注目を浴びています。
この生態系の宝庫といわれる地域でさえ、人口増加による農業や工場建設により大多数の森林で
大規模な伐採が行われ、焼畑農業はこの地方の生物を根絶し、不毛の荒野に変えてしまいました。
森林伐採のために広範囲の土壌が侵食され、川に大量に流れ込んだ土砂は川の水を汚濁し、生活
排水や工場排水により水は汚染されました。これにより、重要な生活用水が周辺の人々から奪われ
ただけでなく、複数の河川系の生態系が破壊され、複数の魚類が絶滅の危機に立たされ、海洋の
珊瑚礁までもが失われています。
世界には約260の河川系があり、国境をまたぎ複数の国を流れる河川が存在します。国際的な 水資源の利用権を定めたヘルシンキ規則などがありますが、問題が生命に直接的に関係すること
であり、水を巡り係争が起きています。多くの場合、他に端を発する国境問題と緊張関係があった上
で、付加的に水資源をめぐって争われます。
チグリス=ユーフラテス河川系は複数の国に利用されている水源ですが、その利用権をめぐり紛争
が起こっています。イラン、イラク、シリアの各国がこの水源の利用を合法に主張して、その総要求量
は河川系の物理的な水量を上回ってしまっており、1974年初頭、イラクは、ユーフラテス川に設置
されたシリアのアッサウラダムを破壊するため、国境地帯に軍隊を集結させるという示威行為を行い
ました。
ヨーロッパのドナウ川では、1992年にはハンガリーとチェコスロバキアが水の利用とダムの設置を
めぐって対立し、国際司法裁判所の裁定にゆだねられました。北朝鮮と韓国、イスラエルとパレスチ
ナ、エジプトとエチオピアなどでは、調整が難航した対立が起こっています。さらに、メコン川では、
中国が上流に建設しているシャオワン(小湾)ダムが流砂を止めるために、メコン・デルタや沿岸農地が
縮小されるのではないかという懸念が流域諸国で構成される「メコン川委員会」で問題になっており、
対応を誤ると新たなアジアの不安要因になりかねないという指摘もあります。
通常、水は貿易の対象となりませんが、多くの貿易品の生産に水が必要となることを考えると、
商品の移動に伴い、その生産に必要とされた水が取引されているとみなすことができ、これらの水
の取引は仮想水貿易と呼ばれています。特に、生産に大量の水が必要となる農産物、畜産物、木
材資源は、仮想水貿易を考える上でもっとも重要となります。
水資源が不足する国々にとって、農産物や畜産物の輸入(=仮想水の輸入)は、水を確保するた
めの選択の一つとなり、中東やアフリカの諸国は、農産物の輸入を通じ、国内で不足しがちな水資源
を仮想水の輸入で補っています。しかしながら、仮想水の輸入には食料自給率の低下をもたらすと
いう側面を持っています。農業技術が高度に発展した米国や欧州連合(EU)から輸出される農作物
は世界の60%にも達し、その量と低価格さは、乏しい水資源に頼って生産される輸入国側の国内産
品が競争できるものではなく、国内農業生産の減少による自給力の低下や失業問題を作り出す原因
にもなっています。
一方輸出国側は、仮想水の輸出によって国内の水資源を消耗させており、米国が農産物の輸出に
伴って国外に輸出している仮想水は、国内の年間総使用水量の1/15になります。米の主要輸出国
であるタイにおいては、1/4に達し、これらの国々にしても無尽蔵の水資源を有するわけではなく、一
部の地域では地下水の枯渇や河川の断流が起こりつつあります。仮想水の輸入大国である日本では、
食料自給率の低さもあり、世界的な水の危機が食糧危機となって顕在化する恐れもあります。
気候変動や河川流量の変化、人口増加などにより、2050年には、地中海沿岸や中東、米国西部などで
約40億人以上、75年には最悪のケースで約90億人が高い水ストレスに悩まされると推定されています。
この世界の水危機を救うためには、地球規模での対策が必要となります。廃水処理施設の設置と地下水
取水の削減により、問題解決策となりそうですが、途上国のみならず先進国においても、排水処理施設完備
のための費用は高く、飲料・食糧の確保が優先する一部の地域にとってこの負担は大きく、あきらめざるえ
ないのが現実です。たとえ、高度技術による排水処理施設の設置ができた場合でも、その維持には莫大な
エネルギーなど人的・経済的費用が継続的に必要となってしまいます。
地下水の取水制限は、一見たやすい政策に感じますが、農業や工業生産に与える経済的打撃が大きく、
必要な農産物高や工業生産高の減少を伴うため、現時点での人口を養うことができなくなってしまう欠点が
あります。
現実的問題解決策として、開発途上国は、たれ流しとなっている汚水や排水を、基本的な排水処理施設
(汚水処理タンクなど)の敷設することから始め、流出先を、飲用水や生態系への影響を最小化することが
大切です。先進国にできることには、高度技術の提供だけでなく、経済的かつ効率的な費用対効果の高い
水処理システムを提案していくことが重要です。個人レベルにおいても、先進国では、水の使用量を少なく
することで、世界的な水の消費量を減らすことができ、これは、自然を保護するにとどまらず、人類にとっても
より健康的な、自然の水循環をより効率的に機能させることになります。
引用:水の危機. (2008, 2月 8). Wikipedia, . Retrieved 01:58, 2月 18, 2008 from
http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%B0%B4%E3%81%AE%E5%8D%B1%E6%A9%9F&oldid=17881085]
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