§2.河川の浄化対策
河川には流域から様々な原因により、無機物、有機物(有害物を含む)が流入し、汚濁現象を引き起こします。そのうち有害物を除いて考えると、BODで測定される有機物が河川の浄化能力以上になると、河川水中の溶存酸素を消費して嫌気状態になることから、悪臭発生や生物へ悪影響をもたらすものとなっています。
河川の直接浄化対策では、河川の本来持つ浄化能力を人為的に補強、補完し、適切な管理と最小限のエネルギーを加えることで河川の汚濁を低減することが有効です。
河川のもつ水質浄化機能
河川は、その河道の形態と多様な流水状態、そして、そこに生息する様々な生物により、流水中の固形物や溶解性物質が希釈、沈殿、ろ過、掃流、吸着、分解、酸化等の様々な機構によって減少、あるいは変化します。河川にはこれらの機構が組み合わされた自浄作用が備わっています。
このような作用を河川の自然浄化作用と呼び、基本的には以下に示す現象があります。
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河川の自然浄化作用模式図 |
?沈殿
河川は瀬と淵との交互のくり返しにより形成され、上流・中流・下流では瀬と淵のそれぞれの大きさは異なりますが基本はこれらのくり返しです。
この場合、淵は瀬に比して流速が著しく低下するので、沈殿の効果が大きくなります。瀬では、瀬にある石と石との間にも流速の低下する場所があり、これも淵よりは小さいですが沈殿の役割を果たしています。
?ろ過
河川は、表流水と伏流水で構成されていますが、伏流水は表流水が河床の砂や土砂を通して、浄化されたものです。伏流水が、落差や堰などのあるところで表流水に混入し、表流水が希釈効果をうけてきれいになります。
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河川内でのろ過機構 |
?生物による吸着・酸化・分解
a.微生物による吸着・酸化・分解
河川においては、河床上の礫や岩等の表面に付着成長した生物膜に、河川水中の有機物あるいは無機物が沈殿・吸着されます。有機物は生物膜を構成する生物群によって酸化・分解されます。
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生物による酸化・吸収・吸着機構 |
炭素繊維を水中に設置すると、その大きな表面積により生物膜を形成し、有機物の吸着、分解が促進されます。
b.水生植物による吸着、吸収
河道内には様々な水生植物が生息しており、植物体表面の付着微生物群による吸着・分解と、根からの溶解性物質の吸収等により、河川水、伏流水中にある窒素、リン等を栄養分として吸収して結果的に汚濁原因物質が減少します。また、植物の密生域においては、流速を低下させ物理的沈殿を起こさせることにより、浄化に寄与することもあります。
植物などの水中での機能は、窒素やリンを吸収し除去することですが、その吸収量は植物の生育に必要な量であり、汚濁の進んだ栄養塩の全ての除去は困難となります。

?流れや落差による酸素の溶解
瀬での波立ちや河道内の落差により大気中の酸素が溶解し、水中の溶存酸素が保持されます。この結果、藻や石表面に付着する生物の機能保全にも寄与しています。
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瀬の模式図 |
平野部の都市汚濁河川では、平坦で勾配が小さく、瀬の機能をはたせず、酸素のとけ込み量が少ないため、酸素供給のために落差工などを設けます。
?希釈
汚れた河川に、きれいな河川の水が合流することにより、汚濁水は希釈され、水量は増加し、水質汚濁濃度が低下することで水質が改善されます。
?掃流
河川の浄化作用により、酸化、吸収、吸着された物質は固形化し、流速によって剥離あるいは沈殿汚泥として河床に堆積します。この堆積した汚泥は、出水時に流速が非常に速くなると掃流され、河川の浄化機能が回復します。
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掃流による浄化機能の回復の模式図 |
自然浄化作用を原理別に物理的作用、化学的作用、生物的作用に分類すると以下のようになる。
●物 理 的 作 用 :河川水の水理的特性によって生じる浄化作用
・沈殿、ろ過、曝気、掃流、希釈
●物理・化学的作用:流れと流れが河床構成材と接触することによって生じる浄化作用
・吸着、凝集、(酸化・還元)
●生 物 的 作 用 :水中等に生存する微生物を媒体として生じる浄化作用
・接触材表面の微生物による有機物の吸着・酸化・分解・合成
・植物による有機物、栄養塩類の取り込み、接触による沈殿
河川浄化対策の方法
●河川直接浄化
汚濁した河川水を浄化するため、汚濁水を浄化施設に導き、浄化した後に河川に還流する、あるいは河川内に直接浄化装置を設置するもので、汚濁負荷量を浄化施設で直接削減できるため、効果的な浄化方法として近年多数実施されつつあります。
浄化施設は、従来、礫間接触酸化法やヒモ接触材などが行われてきましたが、より効果的な接触材として炭素繊維を使用する分離方式直接浄化施設が採用されています。
小規模河川では、河川内に直接炭素繊維水質浄化装置を設置する河川内直接浄化施設の試みもされています。
→炭素繊維による河川直接浄化方式
●流入水直接浄化
本川に流入する汚濁水を浄化するために、支川や排水路に浄化池を設け炭素繊維等の接触材を設置し一定の滞留時間を持たせることにより効率的に水質浄化を行い、本川に流入させます。小川、クリーク、湿原等からの本川流入水の浄化を行う場合に適しています。
→炭素繊維による流入水直接浄化方式
●浄化用水導入
清澄な河川水を汚濁河川に導入し、主に希釈(自浄作用の向上を見込む場合もある)により汚濁河川の水質を改善する方法です。また、潮の干満の影響を受ける河川においては流況の変化(逆流を弱める)による水質改善や、流水中のDOの補給効果もあります。
●底泥処理
水底に堆積した泥は、悪臭の発生、巻き上げによる景観の悪化、DOの消費、さらに栄養塩類溶出等による水質の悪化の原因となるため、底泥を処理することは重要です。
・浚渫
汚泥を河床より除去するのが浚渫です。河床の浚渫は河道の流水断面の確保のため従来より行われていますが、水質保全等の環境面の目的からも底泥のみの除去として実施されています。
・底泥分解
浚渫は、大きな工事費が必要であり生態系破壊に繋がるため、底泥を分解除去する方法があります。織物状炭素繊維などを水底に敷設することにより、微生物の住み処を作り、活性化することで水底の有機物を分解除去する方法です。
●バイパス(流水保全水路)
本川の汚濁の原因となっている支川、排水路を新しい水路、管渠等に分離バイパスして、本川の水質を保全するものです。利水河川に適用されており、利水地点の下流に放流する計画が基本です。
汚濁河川を本川と分離することから、本川水質は上流部の良好な水質が維持されます。新水路、管渠が完成しないと効果を発揮されないこと、新水路、管渠の費用が高いことなどがあり、実施の場合の制約も多く、大河川でのみ実施されています。
●生物環境保全
多様な生物の生息、生育環境の保全を目的に、瀬・淵の保全や多自然工法による河道改修等も行われています。河道内での植生や炭素繊維を利用し自然的浄化作用を増幅させ、河川水質を副次的に改善できるものです。
これらは、生物環境の保全を目的として計画・設計されているため、河川直接浄化と区別して取り扱います。また、浄化目的だけでなく、河川の水質改善や生物生息環境を維持する手法として河川の直接曝気によるDO改善なども対策としてとられています。
河川直接浄化手法の分類
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沈殿 |
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ろ過 |
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物 理 的 浄 化 |
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流れや落差による酸素の溶解 |
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掃流 |
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希釈 |
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底泥除去 |
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沈殿+生物酸化 |
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物理+生物的浄化 |
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ろ過+生物酸化 |
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生物酸化 |
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炭素繊維水質浄化材 |
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生 物 的 浄 化 |
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底泥分解 |
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植物体利用 |
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物理+化学
+生物的浄化 |
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ろ過+吸着+生物酸化 |
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河川直接浄化手法の種類と原理的分類
●炭素繊維水質浄化材
炭素繊維は、大きな表面積により多量の微生物が固着し、水中での揺れにより、有機物分解と窒素・リン除去の水質浄化効果を得られることから接触材に適しており、炭素繊維水質浄化材を接触材に用いる浄化技術は、河川直接浄化方法として極めて有効です。
従来より、接触材として礫、プラスチック、合成繊維などが用いられてきましたが、近年の河川汚濁は富栄養化現象が顕著であり、従来品による栄養塩除去効果は小さいものです。
栄養塩類(窒素・リン)除去として有効とされる植生浄化法(植物体利用)は、汚濁の進んだ水域では、生育のための窒素・リン吸収のみのため、その単位あたりの除去率は低く、多くの植生面積が必要であり実用的とは言えません。
引用:「炭素繊維水利用技術設計指針 −環境水編−」
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